ケートゥ

分 類インド神話
名 称 केतुKetu〕(ケートゥ)【サンスクリット】
容 姿4腕の首なしのアスラ族(魔物)。
特 徴アムリタを飲んで不老不死になった胴体。日蝕と月蝕を引き起こす。
出 典

不老不死の胴体は太陽と月を飲み込む!?

ケートゥはインド神話に登場する4本の腕を持ったアスラ族(魔族)で、元々はラーフという名前だった。不老不死の霊薬アムリタを飲もうとしてヴィシュヌ神に首を斬り落とされた。しかし、すでにアムリタを飲んでいたため、斬り落とされた首は不老不死となったため、ラーフは首だけの姿で天に昇って太陽や月を飲み込み、日蝕や月蝕を引き起こすという。一方、残された胴体も不老不死となって、太陽や月を呑み込んで日蝕や月蝕を引き起こす。この首なしの怪物がケートゥである。

神々は乳海攪拌によってアムリタを獲得する!?

非常に古い時代、まだデーヴァ族(神々)が世界の支配権を確立していなかったときの話。神々が年老いてその権限が衰えてしまい、アスラ族が神々から権力を奪おうとしていた。そこで神々は不老不死の霊薬アムリタを造ることにした。そこでヴィシュヌ神はアスラ族と一緒になって天界の海を攪拌することでアムリタを得るという壮大な計画を提案した。神々はマンダラ山を引っこ抜くと天界に運び、ヴァースキ竜を巻き付け、大亀クールマを受け軸にして、一方を神々が、もう一方をアスラ族が引っ張った。こうして神々と魔族による綱引きが始まり、マンダラ山は天界の海の中でぐるぐると回転し、海は攪拌された。やがて攪拌による摩擦熱で山火事が起こり、周辺の生き物は次々と焼け死んで行く。天候神のインドラは必死に雨を降らせて山火事を食い止めたという。また、ヴァースキ竜もあまりの苦しさから首からげえげえと毒を吐き出し、危うく世界を滅ぼしそうになった。そこでシヴァ神がヴァースキ竜の毒を飲み干したという。シヴァ神の喉(のど)が青いのは、このときにヴァースキの猛毒が喉を焼いたためなのだとされる。

さて、そんなトラブルもありながら1000年間も海を攪拌していると(非常に気長な話である!)、次第に海は白濁したミルク状になり、やがて、そこから月の神ソーマや幸運の女神ラクシュミーなどが生まれたが、最後に医神ダンヴァンタリが飛び出した。彼はひとつの壺を携えていて、これが霊薬アムリタだったのである。

アスラ族はアムリタを奪って逃走した。ヴィシュヌ神は絶世の美女に化けてアスラ族を誘惑し、隙をついてアムリタを取り返した。こうして神々はアムリタを飲み、不老不死になることができ、権威を回復した。一方のアスラ族はアムリタを飲むことができずに、寿命のある存在になったということである。

ラーフとケートゥ、月と太陽に復讐を試みる!?

さて、こうして神々がアムリタを飲んでいる最中、こっそりとデーヴァ族(神々)の姿に化けて紛れ込み、アムリタを飲もうとしたアスラがいた。それがラーフである。けれども太陽と月がそれに気がついてヴィシュヌ神に知らせた。慌ててヴィシュヌ神が円盤でラーフの首を斬り落としたが、ときすでに遅く、ラーフはアムリタを少しだけ飲んでいた。そのため、斬り落とされたラーフの首は不老不死となり、告げ口した太陽と月を追って天に昇り、彼らを飲み込むようになった。しかし、身体がないため、太陽と月はすぐに外に出て来る。要するに、古代インドでは、日蝕と月蝕はこのラーフというアスラの仕業だと説明されたのである。一方の残された胴体の方も不老不死となっており、首なしの怪物となった。これがケートゥである。ケートゥも太陽と月を追い掛けているという。

少しだけ天文学的なお話

天球上での太陽の見かけ上の通り道を「黄道」、月の見かけ上の通り道を「白道」という。この2つの天球上の円は5度程度ずれていて、2つの円が交わる点が2つあり、それぞれ「昇交点」と「降交点」という名称がついている。この交点に近い位置に月と太陽が並んだときに、日蝕及び月蝕が起こる。

そのため、昇交点と降交点は、実際にはそこに天体が存在するわけではないが、古くから各地の占星術で、天体に準ずる存在だと考えられていた。古代インドのヴェーダ占星術では、昇交点がラーフ、降交点がケートゥであると考えられた。

《参考文献》

Last update: 2024/05/03

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