縊鬼

[中国伝承][日本伝承]

名称 縊鬼(缢鬼)〔YìGuĭ〕(イーグイ)【中国語】
縊鬼(イキ、イツキ、クビレオニ)【日本語】
容姿生前と同じ姿。紐を持って出現する。
特徴人にとり憑き、人に取り憑いて首を吊らせる。
出典『太平御覧』(10世紀)、『聊斎志異』(18世紀)

首吊り自殺を引き起こす首吊り自殺の幽霊!?

縊鬼(イーグイ)は中国の伝承に登場する鬼(グイ)の一種で、首を吊って自殺した人間が変化したものだという。日本の鬼(オニ)とは異なり、中国では鬼(グイ)といえば、幽霊のことを指す。縊鬼は首を吊って自殺した人間の鬼(グイ)である。

首吊り自殺の幽霊、身代わりを求める!?

さて、中国には「鬼求代」という概念がある。面白いことに、あの世は無尽蔵に人が住めるわけではないのだという。一定の人口が決められていて、その人口を常に保っている。死者が別の人間として転生するためには、自分の代わりとなる死者が冥界にやって来なければならないので、死者たちはただ待っているのではなく、積極的にこの世にアクセスして、死者の数を増やそうとするというのである。鬼(グイ)が代わりを求める。すなわち「鬼求代」である。代わりの人間というのは、自分と同じような死に方をした人間でなければならないらしく、首吊り自殺を図った死者は、誰かが首吊り自殺をしないと転生できない。そこで、この世にやってきて、自分と同じように、誰かを首吊りさせようとするのである。

縊鬼は自分の死んだ場所の近くにいて、たまたま近くに人間がやってくると、その人間にとり憑いて、自分と同じように首吊りをさせようとする。よくある中国の伝承では、宿に泊まった人が、紐を手にした何者かの影を見かけた後、隣室で人間が首吊り自殺を図る。慌てて止めたところ、隣室の人間は自殺する意思などなく、理由もないまま、縊鬼によって殺されようとしていたことが判明するのである。このように、不意に理由もなく首を吊って死にたくなったときには、近くに縊鬼がいて、そいつの仕業なのかもしれない。

縊鬼、江戸城の喰違門に出没!?

日本でも縊鬼(いつき)などと呼ばれ、鈴木桃野の『反古のうらがき』という古典に登場する。その物語で、男は江戸城の喰違門で何者かに声をかけられ、「ここで首を吊れ」と迫られる。男は何故かその命令には従わなければならないという強迫観念にとり憑かれ、何の疑問も持たなかったという。ところが彼は別件で寄り合いに行く約束があったため、まずはそれに断りを入れてから戻ってくると約束して寄り合い所に向かった。そこで仲間たちに必死に説得されている間に、別の男が喰違門で首を吊ったという。その瞬間、彼は憑き物が落ちたように我れに返り、それからどうして自分が自殺しようなどと思っていたのか分からなくなり、怖ろしくなったという。まさに彼は縊鬼にとり憑かれていたわけである。

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縊鬼は自分の身代わりを探して誘ってくる。誰かが首を吊れば、その者は縊鬼になる。首吊り自殺の連鎖は止まらない。自殺が増加するこの現代を象徴するような妖怪である。

《参考文献》