マラクス

[魔法書文献]

名称Marax(マラクス)、Morax(モラクス)、Foraii(フォライイ)【ラテン語】
Forai(フォライ)
容姿牡牛、特に人間の顔を持った牡牛のような姿をした悪霊。
特徴地獄では伯爵兼総統。天文学やその他の自由学術を教える。優れた使い魔を与える。薬草や宝石の効能について知っている。
出典『デーモン偽君主国』(1577年)、『ゴエティア』(17世紀頃)、『地獄の辞典』(1818~1863年)ほか

人間の顔を持つ牡牛!?

マラクス、モラクス、あるいはフォライイはヨハン・ヴァイヤー(Johann Weyer)の『デーモン偽君主国(Pseudomonarchia Dæmonum)』やソロモン王が書いたとされる魔法書『レメゲトン(Lemegeton)』第1部「ゲーティア(Goetia)」に名前が挙げられている悪霊。その姿は非常に不気味で、人間の顔をした牡牛の姿だという。まるで日本の都市伝説に登場する件(クダン)のようなヤツである。

マラクスは天文学を得意とし、その他、自由学術(詳細は後述)についても詳しい。召喚すると、それらを非常に上手に教えてくれるという。また、良い使い魔も与えてくれるという。また、薬草や宝石の効能について知っている。

モラクスは地獄では伯爵と総統を兼任しているようで、30個、あるいは36個の悪霊の軍隊を指揮しているようだ。旧約聖書には、モレクという頭部が牡牛、身体が人間の悪魔が登場するが、このモレクとマラクスは、おそらく関連があるのだろう。

『デーモン偽君主国』のモラクス

Morax, alias Foraii, magnus Comes & Præses: Similis tauro visitur: Et si quando humanam faciem assumit, admirabilem in Astronomia & in omnibus artibus liberalibus reddit hominem: parit etiam famulos non malos & sapientes: novit & herbarum & pretiosorum lapidum potentiam. Imperat triginta sex legionibus.

モラクス、またはフォライイは偉大なる伯爵で総統。彼は牡牛のように見えるが、人間のような顔をとるときには、彼は天文学と全ての自由学術について、人間を非常に賢くし、良い使い魔を与え、賢く、薬草や宝石の効能や効果について知っている。彼は36個の軍隊を支配している。

(Johann Weyer『PSEUDOMONARCHIA DÆMONUM』)

『レメゲトン』「ゴエティア」のマラクス

魔法書『レメゲトン』は、ソロモン王が書いたという触れ込みで広まったもので、その第1部「ゴエティア」には、ソロモン王が召喚し、使役したとされる72匹の悪霊が紹介されている。この書物は、16世紀のさまざまな文献をもとにつくられたもので、少なくとも17世紀初頭までは遡ることができる。この書物の中にはソロモン王が使役したという72人の悪霊たちの姿や性格、能力、召喚する際の魔方陣や注意点などが書かれている。

(21.) MARAX. - The Twenty-first Spirit is Marax. He is a Great Earl and President. He appeareth like a great Bull with a Man's face. His office is to make Men very knowing in Astronomy, and all other Liberal Sciences; also he can give good Familiars, and wise, knowing the virtues of Herbs and Stones which be precious. He governeth 30 Legions of Spirits, and his Seal is this, which must be made and worn as aforesaid, etc.

(21)マラクス:21番目の悪霊はマラクスである。彼は偉大な伯爵にして総裁である。彼は、人間の顔を持った巨大な牡牛のような姿で出現する。彼の職能は、天文学やその他のあらゆる自由学術について、人間を非常に物知りにすることである。また、彼は優秀な使い魔を与え、賢く、薬草や宝石の効力・効能について知っている。彼は30個の悪霊の軍隊を統治しており、これは前述のとおり、身に着けなければならない彼の紋章である。

(Mathers & Crowley『GOETIA: The Lesser Key of Solomon the King』)

『地獄の辞典』のモラクス

Morax ou Forai, capitaine, comte et président de plusieurs bandes infernales; il se fait voir sous la forme d'un taureau. Lorsqu'il prend la figure humaine, il instruit l'homme dans l'astronomie et dans tous les arts libéraux. Il est le prince des esprits familiers qui sont doux et sages.

モラクスあるいはフォライ 地獄のいくつかの軍団の指揮官、伯爵にして総統で、牡牛のように見える。人間の姿をとるときには、人間に天文学とあらゆる自由七科を分からせる。彼は優しく賢い使い魔の悪霊たちの王子である。

(J. Collin de Plancy『Dictionnaire Infernal』)

ミニ・コラム:自由学術とは?

《自由学術》と訳出したのは“Liberal Sciences”のことである。これは非常に訳出しにくく、正確な訳が分からないので、ちょっと補足しておくと、“Liberal Sciences”に対応する言葉として“Liberal Arts”がある。よく《自由七科》なんて訳される言葉で、奴隷ではない自由人として知っておくべき教養のことで、文法、修辞学、論理学、算術、幾何、天文、音楽の7科目のことを指している。Artsというのは「技芸」、Scienceというのは「技術」というニュアンスで、感覚的に身体で覚えてやる職人技みたいなものが前者、学問として原理・原則が分かって、誰もが理解すればできるのが後者だ。したがって、“Liberal Science”というのは、文法、修辞学、論理学、算術、幾何、天文、音楽なんかの学問的なものというニュアンス。

ちなみに、保有している軍隊の数は資料によって相違があるようだ。『デーモン偽君主国』では36個、『ゴエティア』では30個。どちらが正しいのかはよく分からない。