ディオニューソス

[ギリシア・ローマ神話]

名称Διόνυσος〔Dionȳsos〕(ディオニューソス)【古代ギリシア語】
Βάκχος〔Bakkhos〕(バッコス)【古代ギリシア語】
Ζαγρεύς〔Zagreus〕(ザグレウス)【古代ギリシア語】
Bacchus(バックス)【ラテン語】
容姿頭に葡萄の蔦を巻いた冠をかぶる。酒坏を持つ。
特徴古代ギリシアの酒の神、演劇の神。
出典ヘーシオドス『テオゴニアー(神統記)』、アポッロドーロス『ビブリオテーケー』ほか

古代ギリシアの酒と狂乱の神さま!?

ディオニューソスはギリシア・ローマ神話に登場する豊穣と葡萄酒の神さま。古代ギリシアで彼を崇拝するのは多くの女性信者(マイナ)たちで、彼女たちは家を捨てて山野に飛び出し、ディオニューソスに従うシーレーノスやサテュロスとともに、松明の火や葡萄の蔦が巻き付いた杖を振り回して乱舞する。そして、野獣を捕らえて八つ裂きにし、生のままで喰らい、乱痴気騒ぎを起こしながら、大行進をする。時の為政者たちは、この宗教を恐れ、迫害した。

八つ裂きにされて復活する死と再生の豊穣神!?

ディオニューソスは八つ裂きに引き裂かれて殺され、復活した神さまとして知られる。第1のディオニューソスはザグレウスという名前で、ゼウスとペルセポネーの子として誕生する。ゼウスは蛇に変身してペルセポネーと交わったといい、このザグレウスを自分の跡取りにして世界の支配を託そうとした。しかし、ゼウスの正妻のヘーラーは激しく嫉妬し、ティーターン族にザグレウスを襲わせた。ザグレウスはいろいろな姿に変身して逃れたが、雄牛の姿に変身したときに捕まえられて、八つ裂きにされて食べられてしまった。アテーナー女神が心臓だけは救い出し、ゼウスはそれを飲み込んだ。そして、テーバイの王女セメレーと交わったときに身籠ったのが第2のディオニューソスなのだという。これは死と再生を表現した神話で、ディオニューソス(ザグレウス)が豊穣神としての神格を備えていることを表している。

ゼウスの太腿から再度、復活!?

第2のディオニューソスの出生のエピソードである。ディオニューソスの母親は珍しいことに人間である。ゼウスはテーバイの王女セメレーと密かな逢瀬を続けていたが、遂にヘーラーにばれてしまう。使用人に化けてテーバイに潜入したヘーラーは、セメレーに親しいお世話係から、ゼウスがセメレーのところに会いに来ている話を聞きつける。ヘーラーは激しく嫉妬し、使用人の姿のままでセメレーに近づくと「お前は悪い男に騙されていないか。本当にゼウスなのか」と唆(そそのか)す。セメレーはゼウスにどんな約束も叶えてくれるという約束を取り付けると、ゼウスに本当の姿を見せてくれるように頼む。ゼウスは雷霆を持ち、神の光輝をまとって出現し、これを見たセメレーはあっという間に焼け死んでしまった。そのとき、セメレーはゼウスの子を身篭っていた。ゼウスは大慌てでセメレーの焼死体から胎児を取り出すと、自分の太腿に縫いつけて臨月まで待った。こうして生まれたのがディオニューソスである。

狂乱の宗教の誕生!?

こうして誕生したディオニューソスだが、ヘーラーの迫害は続く。ディオニューソスはセメレーの姉妹である王女イーノ―に預けられ、女の子の振りをして子供時代を過ごしたが、ヘーラーに発見される。こうして、イーノーはヘーラーから狂気を送り込まれて自分たちの子供を殺して死んでしまった。そこで、ゼウスはディオニューソスを辺境の地に送り、そこでニュムペーやシーレーノス、サテュロスなどの山野の精霊たちが彼を育てることになった。ディオニューソスは腐った葡萄(ぶどう)の汁を飲み、酒ができることを発見する。こうして、酩酊を伴う狂乱の宗教が発生する。理性を重視するギリシアの貴族たちからすると異端なこのディオニューソスの宗教はギリシア全土で迫害される。しかし、民衆には熱狂的に信仰されるようになる。そして、ディオニューソスはシーレーノスやサテュロス、熱狂的な信者を引き連れてギリシア中を大行進をするのである。

テーバイ王ペンテウスは、従兄弟である彼の宗教を恐れ、ディオニューソス信仰を禁止して捕らえようとするが、反対にディオニューソスに帰依する教信者の女性たちに殺される。この狂信者の中にはペンテウスの母親まで含まれていたというから、ものすごい熱狂振りである。

最終的には、ディオニューソスは死んだ母親のセメレーを冥界から救い出す。ゼウスはこのディオニューソスの破天荒振りに感心し、神々の飲み物であるネクタルを飲ませる。こうして、彼は神々の仲間入りを果たしたのである。

ヘーパイストスを酔っ払わせて連れてくる!?

後にヘーラーとも和解している。ヘーラーは息子ヘーパイストスの罠に掛かって黄金の椅子に拘束されて身動きが取れなくなった。このとき、神々はヘーラーを解放させるためにヘーパイストスをオリュムポスに呼び出すが、母親に捨てられた憎しみから、彼は応じない。そのときに、ディオニューソスがヘーパイストスに酒を飲ませ、酔わせることでオリュムポスに連行したという。

ちなみに、ディオニューソスというのは《若いゼウス》とか《若い神》という意味で、まさにゼウスの後継者として相応しい名前である。ローマ神話ではバックスと呼ばれている。

熱狂的に崇拝されるディオニューソス!?

本来、ディオニューソスはトラーキアやマケドニアを中心に信仰された狂乱を伴う儀式を行う宗教の神さまで、特に女性信者から熱狂的に支持されていた。これがギリシアに輸入された際に、秩序を重んじる為政者たちに迫害されることになる。しかし、民衆からの熱狂的な支持のために、徐々に受け入れられて、ギリシアの神々の仲間入りを果たした。これが各地を放浪しながら、信者を引き連れて大行進をするディオニューソスの神話に繁栄されているのだろう。また、本来、ディオニューソスとザグレウスは異なる神だったのかもしれないが、信仰が進む過程で一緒になっていったのだろう。

葡萄の蔓や蔦が巻き付いたテュルソスの杖と酒坏がディオニューソスの象徴である。

ディオニューソスは演劇とも結びつき、演劇の神さまにもなっている。おそらく、ディオニューソスの祭儀の中から、次第に演劇が形成されていったことに起因するのだろう。