ラミアー

分 類ギリシア・ローマ神話ヨーロッパ伝承
名 称 Λάμιαlamiā〕(ラミアー)【古代ギリシア語】
容 姿一般には上半身が女性、下半身がヘビ。女性の頭と胸を持ち、全身が鱗に覆われた四足獣の怪物とも。
特 徴子供をさらって喰らう妖怪。若い男性を誘惑して喰らうこともある。
出 典ピロストラトス『テュアナのアポッローニオス伝』(3世紀頃)ほか

子供を殺された母は子供をさらう怪物になった!?

ラミアーはギリシア・ローマ神話に登場する子供をさらう怪物である。元々はリビュエー(ナイル河の西岸の地域)の女王で、美しい女性だったため、ゼウスに愛された。しかし、このことに嫉妬したゼウスの妻ヘーラーは、彼女に子供が生まれるたびに、片っ端から誘拐した。ラミアーは半狂乱になって子供を探し回り、やがて他人の子供をさらう怪物になってしまったという。それだけで飽き足らないヘーラーはラミアーから眠りまで奪った。ゼウスが彼女の両目を取り外せるようにしてやったので、目を取り外しているときのラミアーは苦しみから解放され、眠ることができる。従って、ラミアーが眠っている間だけは、子供たちが襲われることはなくなった。

しばしば、ギリシアの母親たちは、言うことを聞かない子供に対して「早く○○しないとラミアーが来てさらってしまう」などと言って脅かす。実は、このような用法はすでに紀元前1世紀に記録されているので、非常に由緒ある叱り方である。

ラミアー、次々と変容する!?

ちなみに、ラミアーに関する古代の文献は、その姿に関する詳細を説明してくれない。喜劇詩人のアリストパネースは『蜂』(前422年)や『平和』(前421年)の中で、この世で悪臭を放つ三大のもののひとつとして「ラミアーの睾丸」を挙げている。明らかに女性であるにも関わらず、ラミアーは睾丸を持っていることになる。また、ピロストラトスの『テュアナのアポッローニオス伝』(3世紀頃)では、ラミアーは子供をさらうのではなく、若い男性を誘惑して喰らおうとしていた。哲人アポッローニオスの弟子のメニッポスは美しい女性と出会い、一目で恋に落ち、彼女と結婚しようとする。実はこの女性の正体はラミアーで、アポッローニオスはそれを見抜き、「お前はヘビに栄養を与えるのか」と警告した。しかし、メニッポスは聞き入れず、女性と結婚式を挙げる。アポッローニオスが会場で女性の正体を宣言すると、あっという間に豪華な食事や会場は消え去った。アポッローニオスがラミアーを「ヘビ」と呼んだことから、以降、ヨーロッパでは、ラミアーは下半身がヘビの女性の怪物として描かれるようになる。たとえば、イギリスのロマンス派詩人のジョン・キーツは『テュアナのアポッローニオス伝』を下敷きに『レイミア』(1819年)を著したが、ここに登場するレイミアは明確にヘビの身体を持った女性の怪物である。

一方で、ラミアーが四足獣の怪物として描かれることもある。エドワード・トプセルの『四足獣の歴史』(1658年)では、頭と胸は人間の女性で、肉食獣の前脚とウマのような後脚を持ち、全身が鱗で覆われた不思議な姿で描かれている。雄の生殖器も持っていて、これはアリストパネースの「ラミアーの睾丸」を踏襲したものである。

《参考文献》

Last update: 2022/05/08

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