2025年9月13日 貘はミャクでバクでマクでモー
中国起源の日本の妖怪って、たくさんいて、たとえば、貘(ばく)なんかはそうだ。
貘というのは、元々は中国の蜀(現在の四川省)に棲むとされる伝説的な怪獣で、昔から竹や鉄を食べると信じられていた。白黒のまだら模様で、クマに似ていたらしい。……鉄を食べるというのはちょっとオーバーだけど、竹を食べるというところまでなら、何となく「ああ、ジャイアントパンダのことだな」と思う。「竹みたいに硬いものを食べる謎の動物が四川省にいるよ」という話が、次第に伝言ゲームよろしく、鉄を食べるとか武器を食べるみたいな話に広がって行ったのだ。
ところが、途中で、マレーバクを見た旅行者が、白黒の謎の獣というところで「ああ、これが貘なのか!」ということで、クマみたいな姿だったはずの貘は、途中からゾウの鼻を持つ怪物への姿を変えた。そして、朝鮮半島を介して日本に伝わって、今のような姿になった。
ちなみに、日本の貘は夢を食べる。でも、中国の貘は夢を食べない。あくまでも貘が食べるのは鉄だ。朝鮮半島に伝わった貘はプルガサリと呼ばれていて、こちらは鉄を食べてどんどん巨大化する怪物になっている。夢を食べるのは、あくまでも、日本の貘の特徴だ。
ところで、学研漢和大字典によれば、周や秦などの古い時代には、貘はmăk(マク)と発音されたらしい。その後、隋や唐の時代になると、mʌk(マク)あるいはmbʌk(バク)と発音されたらしい。そして、元の時代に語尾のk音が消えて、mo(モー)となり、現代中国語のmò(モー)となっているらしい。日本に入ってきたときの音としては、呉音がミャク、漢音がバクだと説明されている。従って、măk(マク)からミャク、mbʌk(バク)からバクという発音が伝わったということなのだろう。日本では今でも、漢音のバクがそのまま使われ続けている。
たとえば、砂漠の「漠」は「バク」と発音される。角膜の「膜」は「マク」と発音される。「模」という漢字は、規模と書けば「ボ」と読むし、模型と書けば「モ」と読むわけで、bとmで揺らぎがある。「母」という字も、父母と書けば「ボ」だし、鬼子母神と書けば「モ」と読むことが多い。モは呉音、ボは漢音だ。
どうでもよいことなんだけど、妖怪を調べながら、そんなことを考えてしまうボクである。





