水虎(シュイフー、すいこ)

分 類中国伝承日本伝承
名 称 水虎〔shuĭhŭ〕(シュイホゥ、シュイフー)【中国語】
水虎(スイコ)【日本語】
容 姿センザンコウの鱗に覆われ、トラのような脚を持つ妖怪。
特 徴川の中で膝頭だけを水面に出し、人間を咬む。日本では河童の頭領。
出 典李時珍『本草綱目』(1596年)、寺島良安『和漢三才図会』(1712年)、鳥山石燕『今昔画図続百鬼』(1779年)ほか

センザンコウの硬い鱗に覆われた水の怪物!?

水虎(シュイフー)は中国の伝承に登場する川の妖怪で、湖北省の川に棲んでいた。明の時代の『本草綱目』によれば、背丈は3~4歳くらいの子供のようで、全身、鯪鯉(センザンコウのことだと考えられている)のような鱗に覆われているため、身体は矢を通さないほど硬い。普段は水中に身を潜めて、トラに似た脚の膝頭の部分だけを水面に出して、不用意に近づいて悪戯をする子供がいると、咬みつく。もしも水虎を生け捕りにして、その鼻を摘出できれば、何かに利用できるとされているが、詳細はよく分からない。

時珍曰襄沔記云中廬縣有涑水注沔中有物如三四歳小兒甲如鯪鯉射不能入秋曝沙上膝頭似虎掌爪常没水出膝示人小兒弄之便咬人人生得者摘其鼻可小小使之名曰水虎

李時珍『本草綱目』「蟲之四 溪鬼蟲 水虎」(1596年)

水虎は河童たちの親玉!?

江戸時代に日本にも『本草綱目』が伝わって『和漢三才図会』(1712年)などでも紹介された。中国では水虎の絵は描かれてこなかったため、実際にはどんな妖怪だったのかは定かではないが、『和漢三才図絵』では、鱗に覆われた禿頭の人型の妖怪の絵が描かれた。「膝頭似虎掌爪」の部分が「膝頭がトラの脚の爪に似ている」と解釈されたため、『和漢三才図絵』では水虎の膝にはトラの爪がついた姿で描かれている。鳥山石燕も『今昔画図続百鬼』(1779年)の中で、同様の絵を描いていて、日本では膝頭にトラの爪がついた人型の妖怪の姿が定着している。けれども、近年では「膝はトラに似ていて、脚の爪は常に水の中に沈ませて、膝だけを出している」と訳されることが多いので、本来の水虎は膝頭にトラの爪がついていなかった可能性が高い。また、そもそも人型の妖怪だったのかどうかも定かではない。

日本の場合、同じ水棲で人型の妖怪として河童(カッパ)がよく知られていたので、生け捕りにされた河童の絵がしばしば「水虎図」などと記述されるなど、河童と水虎は混同されていく。津軽地方では水神信仰と結びつき、龍宮の眷属で48匹の河童を束ねる頭領を「水虎様」あるいは「水虎大明神」と名付けて祀り、子供たちの水難事故が起こらないようにキュウリなどがお供えされた。このような歴史的な経緯から、近年の妖怪関連書籍では、水虎は河童の頭領として紹介されることが多い。

ちなみに、その起源は定かではないが、水虎を退治する方法も知られている。水虎に殺された人間の遺体は葬らずに、藁ぶきの小屋にそのまま安置して腐らせる。そうすると、その人間を襲った水虎も一緒に腐ってやがて死ぬのだという。

《参考文献》

Last update: 2022/05/08

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