サラマンダー

分 類ヨーロッパ伝承古代・中世博物誌
名 称 Σαλαμάνδρα 〔salamandra〕(サラマンドラ)【古代ギリシア語】
Salamandra(サラマンドラ)【ラテン語】
Salamander(サラマンダー)【英語】
容 姿トカゲ。一説では皮膚の色は白いとも。
特 徴火の精霊。炎の中で生きることができるトカゲ。その皮でつくった衣服は、炎に投じると汚れていても真っ白になる。卑金属が貴金属になる適温で炉の中に出現するとも。火山地帯に棲んでいるとも。
出 典プリーニウス『博物誌』(77年)、パラケルスス『妖精の書』(1566年)ほか

炎の中でも生きられる火トカゲ!?

サラマンダーは古代ギリシア・ローマで信じられた火の中でも生きられるトカゲ。身体が冷たく、粘液があるため、火の中でも燃えない。古代からアリストテレースやプリニウスが言及したことから、中世まで実在が信じられた。その特徴から、ヤモリやサンショウウオの類いだと考えられる。実際、一部のサンショウウオは、焚き火などに遭遇すると、湿った地面に潜って、表面の粘液で火傷を防ぐ性質があるようで、まるで炎の中から這い出てくるように見えたため、火の中でも生きられる存在として信じられるようになったのだろう。

四大精霊の「火」を司る精霊!?

16世紀のスイスの錬金術師パラケルススは『妖精の書』(1566年)の中で、風、水、火、地の四大元素にはそれぞれ精霊がいるとして、土を司る精霊としてサラマンダーを挙げた。錬金術の世界では、古来より四大元素に宿る精霊は人間の姿で想像されており、パラケルススもサラマンダーを人間のような姿をした精霊だと考えていたようだが、パラケルススが火の精霊をサラマンダーと命名したことから、次第に古代ギリシア・ローマの火トカゲの伝承と混ざり合って、やがて火の精霊サラマンダーも火トカゲの姿として考えられるようになった。

四大元素に対応する四大精霊!?

古代ギリシアの哲学者エムペドクレースは「四元素説」を唱えた。彼は、世界は風、水、火、地の四大元素(リゾーマタ)から構成され、愛と憎しみによって結合したり分離したりしてできており、これらのリゾーマタは新たに生まれることもなければ、消滅することもないのだと主張した。この思想は長い間、ヨーロッパの科学者たちに支持されてきた。パラケルススは『妖精の書』でこれらの四大元素には、それぞれに対応する精霊が棲んでいると主張した。すなわち、風にはシルフ、水にはウンディーネ、火にはサラマンダー、地にはノームというわけである。

卑金属が貴金属に変わる適温に炉の中に踊る火トカゲ!?

錬金術では、鉛のような卑金属を黄金などの貴金属に転換する術が使われるが、この卑金属から貴金属に転じる最適な温度になると、炉の中にサラマンダーが出現すると信じられた。そのため、しばしば、錬金術の書物には、炉の中にサラマンダーが描かれる。

その皮は、炎の中に投じると新品に逆戻り!?

サラマンダーの皮でつくった衣服は洗濯する必要はなく、どれだけ汚れても、炎の中に投じれば、再び真っ白になるという。そのため、サラマンダーの皮は非常に高価なものとして人々に求められた。しかし、サラマンダーは灼熱の火山地帯に棲んでいて、火傷しないでサラマンダーを捕えるためには、サラマンダーの皮でつくった手袋と長靴が必要だとされる。まさにパラドックスである。

実際、中世にはサラマンダーの皮が販売されていたことが記録されている。このサラマンダーの皮の正体は、理科の実験などでよく使われていた石綿(すなわち鉱物)であった。

中国では炎の中に棲むネズミ!?

中国にも似たような存在として、火鼠(かそ)という動物が伝わっている。この動物もサラマンダー同様、火山地帯に棲む鼠(ねずみ)で、火の中に暮らしている。その火鼠の毛を織ってつくった布は「火浣布(かかんふ)」と呼ばれ、火に燃えず、汚れても火に入れると真っ白になるという。これも実際には石綿のことだと考えられている。日本にもこの伝承は伝わっていて、「竹取物語」の中で、かぐや姫が結婚の条件として阿倍御主人(あべのみうし)に突き付けたのが、「火鼠の裘(ひねずみのかわごろも)」を持ってくることだった。彼は唐の商人から購入して持参するが、これは贋作で、かぐや姫が火の中に投じたら燃えてしまったという。

《参考文献》

Last update: 2020/07/05

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