ラー

[エジプト神話(ヘリオポリス神話)]

名称𓂋𓂝𓇳𓀭〔rʿ〕(ラー) 《太陽神》 【古代エジプト語】
𓇳𓂋𓂝𓇳(ラー)【古代エジプト語】
※エジプト・ヒエログリフを表示するにはAegyptus fontが必要です。http://users.teilar.gr/~g1951d/からダウンロードしてください。
容姿隼(ハヤブサ)の頭を持った神。あるいは隼。頭に太陽円盤を戴いている。
特徴太陽神。ヘリオポリス神話の最高神。天空と冥界を航海し、悪蛇アーペプと戦う。

太陽神、天空を航海して邪悪な蛇と戦う!?

ラーは古代エジプトの神話に登場する太陽神。太陽信仰が盛んだったイウヌゥ(ヘリオポリス)を中心に、エジプト全土で最高神として広く崇拝された。隼(はやぶさ)の頭を持った神、あるいは隼そのものの姿で、頭には太陽円盤を載せている。毎朝、船に乗って東から昇り、昼の間は天空を移動してエジプト全土を照らしている。夕方になると西の地に沈み、夜の間は冥界を移動しているという。航海の間、大蛇アーペプ(アポピス)が航行を邪魔するため、ラーはアーペプと戦った。この戦いでラーが苦戦すると天候は荒天となり、アーペプがラーを呑み込むと日蝕が起こると説明されていた。

太陽神、最高神になる!?

古代エジプトの宗教は太陽崇拝と言ってもいいくらい「太陽」に対する信仰が篤かった。多くの神々が太陽神としての側面を持っていたし、太陽神学は王権と結びついて、ファラオ(王)たちは死後、太陽神と合一することを目指した。そんな太陽信仰の中で、ラーは強力な太陽神としてエジプトの神々の中に君臨したのである。ラーの信仰はナイル河下流、下エジプトのイウヌゥ(ヘリオポリス)という都市を中心に広まり、王権と結びつきながら、たちまちエジプト全土で篤く信仰されるようになった。そして、ラーは実質的にエジプト神話の最高神になったのである。おそらく、ラーはイウヌゥで古くから崇拝されていた太陽神アトゥムを取り込みながら発展していったのだろう。その後、多くの神々が次々とラーと習合していったのである。

ヘリオポリス神話では、隼の姿をした天空神ホルスと結びつけられた。古くから、エジプトの国家統一はホルス神の化身としてのファラオによってなされてきた。上・下エジプトを統一して第1王朝を築いたとされる伝説のファラオ、メネス王の氏神は元々、ホルス神であった。おそらく、隼を掲げて上・下エジプトを統一したのだろう。メネス王は、メン・ネフェル(メンフィス)を王都としたが、ナイル河を挟んだ対岸にあった都イウヌゥ(ヘリオポリス)はすでに一大学術センターとして栄えていて、ラーが崇拝されていた。この地の支配力を強化するために、歴代のファラオたちは積極的にラー信仰、ひいては太陽神学の教義を取り込んでいくことになる。こうして早いうちから、ラーはホルスと習合し、ラー=ホルアクティとなった。 ラーが隼の姿をしているのは、ホルスと習合したことに由来しているのだろう。

冥界を舞台にした神話を扱っているような絵の中では、ラーは雄羊、あるいは雄羊の頭を持った男性神の姿で描かれることもある(もちろん、太陽円盤を戴いている)。古代エジプトでは「雄羊」は「𓊸𓃝(バー)」で表された。これは「霊魂」を意味する「𓅽(バー)」と発音が一緒だったため、やがて古代エジプトでは雄羊そのものが霊魂のひとつの姿と考えられるようになっていった。ここから、太陽神ラーの冥界での姿が、次第に雄羊と結びつけられていったものと考えられる。新王国時代にはオシリス信仰の影響を受けて、全身を包帯でぐるぐる巻きにされた(つまりミイラにされた)太陽神ラーもしばしば描かれるようになった。

太陽神は日々航海する

太陽は東から昇り、西の地平線に沈んでいく。この日の出、日没のサイクルを象徴的に表現した神話が「ラーの航海」という形で説明されている。ラーの誕生については諸説あって、ひとつは天空の女神ヌゥトを母とするもの、もう一つは原初の海ヌンを父とするものである。ある神話では、ラーは毎朝、ヌゥトの腿の間から生まれる。そして天空を巡り、再びヌゥトの胎内へと戻っていく。別の神話ではラーはヌンの腕に抱えられるようにして原初の海より出現する。そして再び原初の海へと帰っていく。ヌンのヴァージョンはおそらくアトゥム神の神話を踏襲している。いずれにしても、こうしてヌゥトやヌンによって生み出されたラーは幼児や生まれたばかりの仔牛、あるいはスカラベ(フンコロガシ)などの姿で東の空に出現する。そして姿・形を変えながら天空を移動していく。

太陽が天空を移動する手段は「舟」である。ナイル河流域で生活をする古代エジプト人にとって、もっとも効率のよい交通手段は舟だったのだろう。ラーは昼の間はハヤブサの姿でマアンジェト《昼の舟》に乗って天空を移動し、夜は雄ヒツジの姿に身を変えてメセケト《夜の舟》に乗って冥界を航海すると考えられていた。また、別のヴァージョンの神話では、ラーは夕暮れになると天空の女神ヌゥトに飲み込まれて、ヌゥトの胎内を航海すると説明されている。そして翌朝になると再びヌゥトの腿の間から生まれてくるのだ。この後者のヴァージョンの神話では夜間、ラアが航海するのは冥界ではなくてヌゥトの胎内ということになる。

このラーの航海には大地の神ゲブや暴風神セト、知恵の神トトに真実の女神マアト、魔術の女神イシス、その他たくさんの有力な面々が付き添ってラーを守護する。ピラミッド・テキストが書かれるようになる頃には、亡くなった王までもがこの航海に同行し、ラーを守護している。冥界を旅するラーの前には毎回、邪悪な蛇アーペプが現れて、その運行を妨害しようとする。そこで、ラーは日夜、アーペプと戦わなければならなかった。後代になると邪神扱いされることの多いセトが、この神話の中では積極的にアーペプと戦い、ラーを守護している。聖なる蛇メヘンがとぐろを巻いてぐるりとラーを守護し、イシスが魔法を駆使してラーを護る。それでも稀にラーは敗北し、そのために日蝕が起こるのだと考えられていた。アーペプは何度殺されても、ラーとともに復活し、毎回、ラーの前に立ちはだかるのである。そのため、ラーはしばしば蛇の天敵である雄猫の姿をとってアーペプと対峙することになる。

簡単、ヒエログリフ講座 (^▽^)ノ♪

ラーのヒエログリフは下表のとおり。

文字画像象形意味発音
「口」を象った文字《口》[r](ラ行)
「前腕」を象った文字《腕》[ʿ](有声咽頭摩擦音)
「太陽の輪」を象った文字。決定詞「太陽、日、時間」《太陽、ラー神》[rʿ]
「座る神」を象った文字。決定詞「神、神の名前」

3番目の《太陽》を意味するヒエログリフ単独でも、充分に「ラー」を意味することができる。でも、意味をもっと明確にするために4番目の「神」の決定詞を後ろにつけることもある。要するに「ラー神」みたいな感じで、「これは神さまの名前ですよ」と明示するのである。そうすることで、3番目のヒエログリフが「太陽」を意味しているのか「ラー」を意味しているのかが分かりやすくなる。さらに、それに「口」と「前腕」のヒエログリフをつけることで、読み方を補足する。古代エジプト語の場合、文字がたくさんあるので、読み方が分からなくなると困るので、文字の意味とは無関係に、発音を補足するために文字をくっつける。そうすることで、読み方が分からなくならないのである。

王権と太陽神

ラー信仰の痕跡はすでに先王朝時代に見ることができる。第2王朝の2代目のファラオ、ラーネブの名前にはラーの名が冠されている。また、第4王朝のクフ王の後継者としてファラオを継いだのがジェドエフラーで、彼の名前は《ラー、彼は永遠にある》という意味だ。おそらく彼の時代の頃から、ラー神官団の勢力が増していったのだろう。彼は先代のクフ王がピラミッドを建造したギザの台地ではなく、それよりもずっと北、太陽信仰の中心地イウヌゥの西側にあるアブロアシュの台地にピラミッドを建造している。その後のカーフラー、メンカウラーのピラミッドは再びギザに戻されるが、ファラオたちの名前からも分かる通り、カーフラーは《ラー、彼が出現する》、メンカウラーは《ラーの魂が確立する》という名前で、その当時、ラーの影響が王朝に大きく及んでいたことが分かる。

《参考文献》

  • 『Newton Science Series ヒエログリフ解読法 古代エジプトの文字を読んでみよう』(著:マーク・コリア/ビル・マンリー,監:近藤二郎,訳:坂本真理,Newton Press,2000年)