ニョルズ

[北欧神話]

名称Njǫrðr(ニョルズ)【古ノルド語】
容姿足の美しい神。
特徴船や港、貿易や漁師に関係する海神。ヴァン族。フレイやフレイヤの父親。
出典『古エッダ』「ロキの口論(Lokasenna)」、「ヴァフスルーズニルの言葉(Vafþrúðnismál)」、「ギュルヴィたぶらかし(Gylfaginning)」、『スノッリのエッダ』「詩語法(Skáldskaparmál)」、『ユングリング家のサガ(Ynglinga saga)』ほか

船乗りや漁師たちを守護する海の神!?

北欧神話に登場する海神。海神ではあるが、海の荒々しさや豊かさを司るというよりも、船や航海、港や貿易、漁や漁師に関係する神さまという側面が強い。北欧神話には、海の巨人としてエーギル(Ægir)やラーン(Rán)がいるが、彼らは嵐や大波を起こして船を難破させる恐ろしい側面を持つが、ニョルズは航海を守護する神さまで、エーギルが起こす暴風雨を止めたりしたとの記述もある。

オージン(Óðinn)を筆頭にする神々はアース族に属するが、ニョルズはそれとは異なるヴァン族の出身である。『ユングリング家のサガ』によれば、アース族とヴァン族は戦いの末に和解し、互いに人質の交換がなされたという。アース族からはヘーニル(Hœnir)とミーミル(Mímir)が送られ、ヴァン族からはニョルズとその息子のフレイ(Freyr)、娘のフレイヤ(Freyja)がアースガルズにやってきたと説明されている。

美しい足ランキング、ナンバー・ワン!?

ちなみに、「ロキの口論」によれば、フレイとフレイヤはニョルズとその妹との間の子供とされている。しかし、妹はアースガルズにはやって来ていない。その上、ニョルズはアースガルズにやってきた後に、山の巨人スカジ(Skaði)と結婚させられている。

あるとき、ロキの失態により、巨人スィアチ(Þjazi)によってアース族の女神イズン(Iðunn)が強奪された。スィアチはスカジの父親だった。そして、イズンは永遠の若さを約束する黄金の林檎の管理者だったため、イズンを失った神々はたちまち老い始めた。そこで、ロキがイズンの奪還を命じられ、ロキの策略により、巨人スィアチは神々の前に引き出され、殺された。スカジは神々に復讐するため、アースガルズに乗り込んできた。神々は彼女をなだめるために、アースガルズの神々と結婚することで和解するように提案する。スカジは一目見て若く美しいバルドル(Baldr)を気に入ったため、この神と結婚しようと思った。神々は足だけを見て結婚相手を指名するように求め、スカジはそれに応じた。バルドルは足も美しいに違いないと思ったのである。そして、もっとも美しい足をした神さまを指名した。すると、それはニョルズだったのである。実はニョルズは海の神さまだけあって、常に足が波で洗われていたため、非常に美しかったのである。

しかし、この結婚はうまく行かなかった。スカジはǪndurdís《スキーの女神》と呼ばれるほどにスキーを愛する女神で、山に住んでいた。一方、ニョルズは海に住む海神だ。ニョルズの館は海辺にあり、スカジは朝の海鳥の鳴き声が耐えられなかった。スカジの館は山にあり、ニョルズは夜の狼の遠吠えが耐えられなかった。結局、二人は別々に暮らすことになる。

ヴァン族は近親相姦、オーケィ!?

ちなみに、アース族の間では近親相姦は禁止されていたが、ヴァン族では近親相姦はしばしば行われていたらしい。「ロキの口論」の中で、ニョルズはロキから、妹と近親相姦でフレイとフレイヤを産んだことを非難されている。また、フレイとフレイヤも、ロキに近親相姦を仄めかされている。

タキトゥスの『ゲルマーニア(Germania)』にはネルトゥス(Nerthus:古ノルド語で再建するとNerþuz)という女神が登場する。これは古代ローマ人から見た古代ゲルマン人とその周辺民族の文化や歴史、宗教について書いたもので、その正確さは疑問視されている部分もあるが、このネルトゥス女神は、ニョルズと同語源と考えられている。フレイとフレイヤが双子の兄弟で、同じ語源で神と女神の対になっているので、ニョルズとネルトゥスも双子の兄弟で、神と女神の対になっていたのではないかと推測されている。したがって、フレイとフレイヤを産んだニョルズの妹は、タキトゥスが記録しているネルトゥスなのではないか、と考えられている。

北欧神話では、多くの神々はラグナロクのときに巨人族と戦って死ぬことになっている。しかし、「ヴァフスルーズニルの言葉」の中で、ニョルズはヴァン族の国ヴァナヘイムに帰るという記述がある。ニョルズはラグナロクの後にも生き残るのかもしれない。