ナッ

[ミャンマー伝承]

名称 နတ်း(ナッ)【ビルマ語】
(※ミャンマー文字はMyanmar3フォントをダウンロードしてください)
容姿金色の甲冑を身に着けた人間の姿。
特徴ミャンマーに伝わる精霊。37人の頭領がいる。

ミャンマーの精霊崇拝!?

ナッというのはミャンマー(ビルマ)で広く信仰される土着の精霊のこと。基本的にはアニミズム的な精霊崇拝(万物に精霊が宿っているという考え方)に基づいていて、森の精や樹木の精、水の精など、名前の知られていないものも含めると、ミャンマーには数えきれないほどのナッたちが棲んでいるらしい。自然霊のようなものから、神さまのように崇拝されているものまでいる。中には非業の死を遂げた人間が死後にナッになる場合もあって、この場合は非常に強力である。こういうのは、日本の御霊信仰(崇徳天皇や菅原道真など、死後、怨霊になって都を襲ったので、その祟りを鎮めるために御霊として祀った)に似ているかもしれない。ナッは人々に不幸や病気をもたらすこともあるので、祭儀を執り行って供物を捧げて宥める必要がある。

霊媒師ナッカドーに憑依する!?

ミャンマーにはナッカドー(နတ်ကတော်)という霊媒師たちがいる。ナッカドーは《ナッの妻》という意味で、本来的には「巫女」であるが、実際には女装した男性(要するにオカマだ!)のナッカドーが多い。ナッたちはナッカドーに憑依して人々と語るのである。いわゆる口寄せだ。ナッ信仰最大のお祭り・タウンビョン精霊祭では、たくさんのオカマたちがタウンビョン村へと集まってくるという。

南アジアの文化圏にはしばしば男性が女性として生きる「第3の性別」がある。伝統的に神さまと人間の間に位置する存在として、宗教的な祭儀で中心的な役割を果たす。インドではヒジュラーと呼ばれていて、ヒンドゥー教の寺院とかで宗教的な儀礼に携わっている。ナッカドーもそういう南アジアの文化の影響があるのだろう。

37人の頭領と仏教!?

ナッの中でも特に有名なのはザジャー・ミーンミーン・マハギリなどの 37人のナッの首領(ドン)たちである。

11世紀、パガン王朝(ビルマ族最初の王朝)のアノーヤタ王は、上座部仏教を軸にした国家づくりを推し進めたんだけど、このときに、土着のナッ信仰が大きな障害になったという。そこでアノーヤタ王はナッたちの中から特に強大なものを36人選んで、その最高位にザジャー・ミーン(帝釈天のこと)を据えた。これが 37人のナッの首領たちである。最高位に仏教の帝釈天を置くことで、ナッ信仰を仏教の中に取り込もうとしたわけだ。

もともと仏教も、バラモン教を排除できなかった。仏教で「~天」というのはバラモン教の神さまを仏教に取り込んだもの。こういう集団を仏教では「天部」という。帝釈天はバラモン教の神々の王であるインドラが仏教に取り込まれたもので、この天部のトップに君臨している。アノーヤタ王は、この天部の王である帝釈天(ザジャー・ミーン)をナッの王にしてしまったのである。

現在のミャンマーの仏教では、ナッ信仰は公式には認められていない。それでもまだ、土着のナッ信仰は残っていて、仏教と共存している。ミャンマーの仏教寺院に行けば、仏像と一緒になって、ナッの像が安置されているのを見ることができる。シュエダゴン・パヤーの現地ガイドに訊いたところ、ナッは仏を守護する存在なのだと説明してくれた。