ミュルメーコレオーン

分 類古代・中世博物誌ヨーロッパ伝承
名 称 Μυρμηκολέων〔Myrmekoleon〕(ミュルメーコレオーン)《蟻獅子》【古代ギリシア語】
Antlion(アントライオン)【英語】
容 姿上半身がライオン、下半身が蟻(あり)。
特 徴上半身が肉を貪るが、下半身が消化できないため、餓死する。
出 典フローベール『聖アントワーヌの誘惑』ほか

ミュルメーコレオーンのイラスト

聖書の誤訳が生み出した奇天烈な怪物!?

ミュルメーコレオーンは上半身がライオン、下半身がアリというとんでもない組み合わせの姿をした怪物だ。ヘブライ語聖書をギリシア語に翻訳する過程での誤訳から誕生した怪物である。ギリシア語版聖書の『ヨブ記』第4章第11節に「雄獅子は、獲物を得ずに滅ぶ」という表現があったが、「雄獅子」を意味するヘブライ語は一般的な語ではなかった。そこで当時の翻訳者たちは、ギリシア語に翻訳する際に、アラビアに棲む伝説のライオン・μύρμηξ(ミュルメークス)を訳語として当てて翻訳しようとした。このミュルメークスというのは、他のライオンとは異なり、生殖器が逆向きについていて、黄金色の肌を持つと信じられていた。しかし、ミュルメークスというのは、ギリシア語では単に《蟻》という意味になってしまうので、そこに最終的には《獅子》を意味するλέωνをくっつけて、「ミュルメークス獅子」という造語にして訳された。しかし、これが次第に《蟻獅子》という意味で解釈されるようになった。そして「蟻獅子、獲物を得ずに滅ぶ」という妙なフレーズに着想を得て、後代のキリスト教徒たちが想像を逞しくして生まれていったのがミュルメーコレオーンである。

上半身が肉を貪り、下半身で消化不良を起こし、餓死!?

ミュルメーコレオーンは中世ヨーロッパで聖書に次ぐベスト・セラーになった『フィシオロゴス』に登場して、広くヨーロッパに流布していった。それによれば、ライオンの父とアリの母から生まれるとも、ライオンがアリの卵を妊娠させると生まれるとも言われた。『フィリオロゴス』には、ライオンの頭とアリの身体を持つという描写があるが、フローベールが『聖アントワーヌの誘惑』の中でこの怪物を登場させたときには、ライオンの上半身とアリの下半身と描写された(イラストは『聖アントワーヌの誘惑』の記述に基づいて描いてみた)。

当時のヨーロッパでは、アリは草を食べるものと考えられていたようで、肉食のライオンの口と草食のアリの腹を持つ動物として想像された。そのため、上半身がどれだけ必死になってガツガツと動物の肉を喰らっても、下半身が肉を消化できないため、すぐに飢えて死んでしまう。自己矛盾の怪物であった。

英語ではAntlion(アントライオン)と訳される。ちなみに、現代英語では、アントライオンはアリを襲うアリジゴク(ウスバカゲロウの幼虫)を指して用いられている。

《参考文献》

Last update: 2024/04/04

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