ヘルメース

[ギリシア・ローマ神話]

名称Ἑρμῆς〔Hermēs〕(ヘルメース)【古代ギリシア語】
容姿青年神。とんがり帽子をかぶり、羽根のついたサンダルを履く。
特徴ギリシア・ローマ神話の伝令の神。旅行の神。商売の神。盗みの神。
出典ヘーシオドス『テオゴニアー(神統記)』、アポッロドーロス『ビブリオテーケー』ほか

神々の伝令役!?

ヘルメースはギリシア・ローマ神話に登場する青年神。ゼウスを筆頭にしたオリュムポス族の一人で、嘘と泥棒の才能があり、神々(特にゼウス)の伝令役として活躍する。

ヘルメースは道祖神!?

ヘルメースは道祖神としての側面も持っていたようだ。アルカディア地方では、古くから男神の頭部がついた石の柱が道に祀られていたようで、これがヘルメースとして崇拝されていたらしい。ここから旅人の神になり、旅行や道路、交通の神と言った要素が付け加えられていく。また、そこを行き来する商人の神になり、商業、交易の神になるなど、多様な職能を持つに至っている。

また、ヘルメースはアルカディア地方に住んでいた先住民の豊穣神であった。道祖神として祀られていた石の柱にも、大きなおちんちんが彫られているが、これは多産・豊穣を象徴しているのだろう。

ヘルメースは、つばの広い丸い旅行帽「ペタソス(πέτασος)」をかぶり、神々の伝令の証である杖「ケーリュケイオン(κηρύκειον)」を手に、空を飛ぶことができる翼の生えた黄金のサンダル「プテーノペディロス(πτηνοπέδιλος)」を履いた姿で描かれる。

ヘルメース、産まれたその日に牛50頭を盗む!?

ヘルメースはゼウスとニュムペーのマイアの子である。ゼウスはオリュムポス族に伝令神をつくるために、夜中、妻のヘーラーが眠りについている間にこっそりと抜け出し、マイアの住む洞窟に向かうと子供をもうけた。この所業には、神々も誰も気付かなかった。こうして産まれた子供なので、ヘルメースは泥棒と嘘の才能に長けているのだという。

ヘルメースは誕生するとすぐにその才能を発揮した。早朝に生まれると、昼間には揺籠(ゆりかご)から抜け出すと、亀を発見し、そこから竪琴を作ってみせた。それから揺籠に戻る。夜の帳が下りると、再び揺籠を抜けだすと、今度はアポッローンの飼っていた50頭の牛をまんまと盗み出したのである。しかも、気付かれないように、牛を後ろ向きに引っ張って歩かせたり、自分の足のサイズとは異なるサンダルを履いたりと、足跡を偽装する念の入れようだ。

翌朝になって、アポッローンは牛がいないことに気がついた。そこで鳥占いによって犯人を突き止めると、ヘルメースの元を訪れ、牛を返すように迫った。しかし、ヘルメースは「生まれたばかりの赤子にそんなことができるわけがない」と嘯(うそぶ)く。そして、ゼウスの前に引き立てられても「ボクは嘘の吐き方も知らない」などと言った。ゼウスは思惑どおりにヘルメースに泥棒と嘘の才能があることを見抜き、ヘルメースに牛を返すように勧めた。

アポっローンの竪琴を発明したのはヘルメース!?

ヘルメースは牛を盗んだ帰りに洞穴で捕らえた亀の甲羅に羊の腸を張って竪琴を作ったが、アポッローンは牛と竪琴を交換することでヘルメースを許した。さらにはヘルメースが葦笛を拵(こしら)えると、アポローンは友好の証として自身の持つケーリュケイオンの杖をヘルメースに贈ったという。こうして、アポッローンとお互いに必要な物を交換したことから、ヘルメースは商売の神とされるようになった。また、生まれた直後に各地を飛び回ったことから旅の神になったのである

ヘルメースのアルゴス退治!?

ヘルメースはゼウスの忠実な部下として活躍する。百眼巨人アルゴスの殺害の神話がよく知られている。あるとき、ゼウスはヘーラーの神官だったイーオーに一目惚れし、黒雲に変身して地上へと降りて彼女と交わった。しかし、さすがに浮気好きゼウスの正妻ヘーラーは慣れたものである。怪しい黒雲を発見すると、不審に思って地上に降りて行った。逢瀬の現場を差し押さえられそうになったゼウスは慌ててイーオーを白い雌牛に変身させて誤魔化そうとした。ヘーラーはそれを察すると、白い雌牛を譲り渡すように要求した。こうして、イーオーは雌牛の姿のままヘーラーに引き渡されることとなった。

ヘーラーは腹心のアルゴスを呼びつけると、白い雌牛を見張るように言いつけた。アルゴスは100個の眼があり、それぞれの眼が交代で眠るため、決して眠りにつくことはない。まさに見張り番としてうってつけの逸材である。アルゴスはイーオーをミュケーナイの森へ連れて行くと、オリーブの木にイーオーを繋ぐと、見張りを始めた。可哀想なイーオーは牛の姿のまま、モーモーと鳴きながら、草を食み続けることになったのである。

天界からこれを眺め、不憫に思ったゼウスはヘルメースを呼び寄せると、イーオーを取り返してくるように命じた。ヘルメースの杖には他者を眠らせる魔力があった。そこで、ヘルメースは葦笛を奏でながら、魔法の杖を使ってアルゴスを眠らせた。さすがの眠らずの巨人も、ヘルメースの魔力には敵わなかったのである。こうして、ヘルメースは眠り込んだアルゴスの首を斬り落とすと殺してしまった。ヘルメースがἈργειφόντης(アルゲイポンテース)《アルゴスの殺戮者》と形容されるのは、この出来事に由来している。

死者の魂の導き手

また、ヘルメースは死者の魂を冥界に導く魂の導き手としての側面も持っている。これはヘルメースが旅人の守り神だからである。冥界を旅する魂も、ヘルメースは守ってくれるわけである。冥界から死者の魂を地上に戻す役割も担う。オルペウスの冥界行きにも同行している。

ヘルメースはヘーラーの息子ではないが、アレースと入れ替わって母乳を飲んでいたことがあり、このため、ヘーラーはヘルメースにも情が移り、彼を我が子同然に可愛がったという。

ローマ神話では、メルクリウス(英語ではマーキュリー)と呼ばれている。