ヘル

[北欧神話]

名称Hel(ヘル)【古ノルド語】
容姿半分が青、半分が人肌色の険しい顔の女。
特徴冥府ニヴルヘルの女主人。ロキ神と女巨人アングルボザの子で、フェンリルやヨルムンガンドとは兄弟。老衰や病気で死んだ人間を支配する。
出典『ギュルヴィのたぶらかし』ほか

神々をも従わせる冥府ニヴルヘルの女主人!?

ヘルは北欧神話に登場する冥府の女主人。北欧神話では、名誉ある戦死者はオージン神フレイヤ女神の元に行くことが出来るが、老衰や病気など、それ以外の原因で死んだ人間たちは、氷の国ニヴルヘイムにある冥府ニヴルヘルに行くという。冥府ニルヴヘルは、女主人のヘルが統治して、エーリューズニルという館に住んでいる。彼女の半身は青く、半身は人肌の色をしているという。これは、彼女の半分が死んでいて、半分が生きていることを表していると考えられる。ヘルはロキ神と女巨人アングルボザの間に生まれた子で、大狼フェンリル、世界蛇ヨルムンガンドとは兄弟の関係にある。神々はこの三兄弟を恐れ、フェンリルは縛り上げられ、ヨルムンガンドは海に投げ捨てられ、ヘルは氷の国ニヴルヘイムへと追放された。オージン神はそこで死者を支配する役目を彼女に与えたという。

冥府を支配するヘルの威力は強力で、たとえ神々でも、死ねばヘルの支配下に置かれる。たとえば、ソール神はロキ神と口論した際に「この槌で貴様をヘルの死者の門の下へ送る!」と脅している。また、実際にオージンの息子のバルドル神はロキの策略によって死に、ニヴルヘルに送り込まれている。ヘルモーズ神がバルドルを蘇らせるように嘆願しにニヴルヘルへ向かう。それに対して、ヘルは九つの世界の住人全てがバルドルのために涙を流せば蘇らせるという条件を出した。結局、ロキ神が化けた女巨人が涙を流さなかったため、バルドルは蘇らなかった。このように、たとえ神々であっても、北欧神話の世界では、ヘルの決定を覆すことはできない。

ちなみに、ヘルという名称そのものは、《隠す》という意味のインド・ヨーロッパ祖語のKel-に由来するとされ、英語で《地獄》を意味するHellと同語源である。

《参考文献》

  • 『エッダ ―古代北欧歌謡集』(訳:谷口幸男,新潮社,1973年)