ガイア

[ギリシア・ローマ神話]

名称 Γαῖα(ガイア)、Γῆ(ゲー)《大地》【古代ギリシア語】
Terra(テッラ)《大地》、Tellus(テッルース)《大地》【ラテン語】
特徴母なる大地の女神。ギリシア・ローマ神話に登場するほとんどの神々は彼女の子孫である。
出典ヘーシオドス『テオゴニアー』(紀元前7世紀)ほか

原初に生じた母なる大地!?

ガイアはギリシア・ローマ神話に登場する大地の女神である。紀元前7世紀の詩人ヘーシオドスの『テオゴニアー(神統記)』の中では非常に重要な女神として位置づけられている。それによれば、ギリシア・ローマ神話のほとんどの神さまは辿っていくとガイアの子孫になる。まさに神々の母である。

ヘーシオドスの語る創世神話によれば、原初には何もなかった。しかし、あるとき、カオス(穴っぽこ)が生じ、その穴っぽこの中にガイア(地)が生じた。我々の暮らすこの大地の誕生である。ガイアと同時にタルタロス(奈落)とエロース(性愛)も誕生したという。ガイアは誰とも交わることなく、たった独りでウーラノス(天)、オロス族(山々)、ポントス(海)を産み出し、エロースの働きによってウーラノスと夫婦になった。こうしてウーラノスが最初の神々の王となり、ウーラノスとガイアからはギリシア・ローマ神話に登場するさまざまな神々が生まれていったのである。

ウーラノスの去勢

神話の中で、ガイアはいい意味でも悪い意味でも、常に「母」として苦悩し続ける。最初はウーラノスであった。ガイアはウーラノスとの間にヘカトンケイル族(百腕巨人)、キュクロープス族(一眼巨人)、ティーターン族を産んだが、ウーラノスはヘカトンケイル族とキュクロープス族の姿があまりに異形であったことから彼らを恐れ、彼らをガイアの子宮に押し戻してしまったのだ。これに苦しみ、腹を立てたガイアはティーターン族を呼び出して、ウーラノスへの報復を呼び掛けた。尻込みする子供たちの中で、末子のクロノスが名乗りをあげたため、ガイアはアダマス(金剛)の鎌を産み出すとクロノスに与え、ある作戦を授けた。

夜になってウーラノスはニュクス(夜)を引き連れてガイアのところへやってきて、ガイアに交わろうと覆い被さった。隠れていたクロノスは飛び出していくと、金剛の鎌で父親の生殖器を斬り落とした。

こうして天と地は切り離され、ヘカトンケイル族とキュクロープス族が飛び出してきた。ウーラノスの陰部から流れる血液はガイアへと降り注ぎ、そこからエリーニュス族(復讐)、ギガース族(巨人)、メリア族(トネリコの樹)が生まれたという。

ウーラノスは以降、クロノスに王の座を明け渡すと、神話の表舞台からは消える。その後、ガイアは今度はポントスと交わって、ネーレウスなどの海の一族を産み出している。

クロノスの蛮行とゼウスの誕生

さて、こうして子宮に閉じ込められていたヘカトンケイル族、キュクロープス族を救い出したガイアだったが、クロノスは彼らを疎み、今度は彼らをタルタロス(奈落)へと突き落としてしまったのだ。ガイアはこれに腹を立てる。

その上、神々の王となりレアーを娶ったクロノスだったが、彼はレアーとの間に誕生する自分の子供たちを次々と飲み込んでいってしまう。これは、去勢されたウーラノスの「お前も自分の子供に支配権を簒奪される」という予言が頭から離れなかったためだ。レアーは産むたびに子供がクロノスに飲み込まれてしまうため、ガイアに相談した。そこでガイアはある策略を授けた。レアーは最後に生まれた子供だけは、石を産衣に包んだものを身代わりとしてクロノスに与えたのである。クロノスは策略に気付かずに石を飲み込んだ。こうして無事に生まれた子供がゼウスである。ゼウスはガイアによってクレーテー島に運ばれ、そこでこっそりと育てられた。

やがて立派に成長したゼウスはクロノスに薬を飲ませて兄弟たちを吐き出させると、兄弟たちとともに、父親率いるティーターン族との戦いを開始する。しかしお互いの戦力は拮抗し、なかなか決着がつかなかった。

そこでガイアはタルタロスに閉じ込められている自分の子供たちを助け出し、味方にすれば勝利できるとゼウスに助言した。ゼウスたちはヘカトンケイル族とキュクロープス族をタルタロスから解放すると、ティーターン族に勝利した。

怪物テューポーンの派遣とガイアの敗北!?

こうしてガイアの不満の種はなくなったか、というとそうではなかった。今度はゼウスが制圧したティーターン族をタルタロスへと閉じ込めてしまったのだ。なかなかガイアの思う通りにはならない。腹を立てたガイアは、今度はギガースたちをゼウスに差し向けた。しかし、ゼウスらオリュムポス族は難なくこれを制圧してしまう。そこでガイアはタルタロスと交わってテューポーンという怪物を産み出して差し向ける。これにはゼウスも苦慮したが、しかしゼウスはこれも制圧してしまう。

さすがのガイアもこれで諦めたのか、これ以降、ガイアは大人しくなる。こうして、テューポーンを制圧することで、ゼウスの支配権は盤石なものになったのであった。

以上のように、ガイアは「母」のエゴを体現したような存在である。息子であるウーラノスやクロノスを愛し、思いどおりにならないと憎む。また、息子であるヘカトンケイル族やキュクロープス族、ティーターン族の処遇を憂い、救出しようと試みる。このガイアのエゴに翻弄されながら、世界の支配権はウーラノスからクロノス、ゼウスへと移り変わっていくのである。

コラム:オリエント神話の影響

ちなみに、このクロノスによるウーラノスの去勢と支配権簒奪の物語は、オリエント神話の中で語られる天地分離神話に起源を持つ。大昔には天と地はくっついていて、それを第三者が分離するという神話だ。シュメル・アッカド神話ではアン/アヌ(天)とキ(地)をエンリル(風)が分離する。エンリルが母親であるキを奪い、アンは天へと去っていく。エジプト神話ではゲブ(地)とヌゥト(天)が愛し合って離れようとしないため、シュウ(大気)が間に入って、絶えず天地を分離している。

フルリ・ヒッタイト神話では神々の王アヌ(天)に対して息子のクマルビが謀反を起こす。天に逃れようとした父親の生殖器をクマルビは噛み切る。その際、クマルビはアヌの精液を飲み込んでしまう。アヌは「お前の体内に天候神を置いた」と言って天へ去る。クマルビは慌てて精液を吐き出すが、やがて体内で天候神テシュブが育ち、飛び出してくる。こうしてクマルビはテシュブによって倒され、テシュブが神々の王となる。クマルビはテシュブに復讐するためにウルリクムミという怪物を産み出して差し向けるが、これはテシュブによって制圧されてしまう。

ギリシア・ローマ神話のウーラノス・クロノス・ゼウス(及びテューポーン退治)の物語は、このフルリ人のアヌ・クマルビ・テシュブ(及びウルミクムミ退治)の物語を下書きにしているのだろう。生殖器を切断する、子供を飲み込む、支配権を簒奪する、怪物を制圧して支配権を盤石にするというモティーフが共通して登場している。

ガイアの崇拝!?

ガイアの崇拝は各地に認められる。アポッローンを祀るデルポイの神託所も、古くはガイアのための神殿であったと考えられている。また、地上のあらゆることが彼女(大地)の上で行われることから、ガイアは誓言の神と考えられている。

《参考文献》