2015年10月10日 非常に純度の高い正攻法的なミステリィ

ドラマ『掟上今日子の備忘録』を観た。実のところ、西尾維新の『クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い』(講談社文庫,2008年)のファンだったし、それよりも前から新垣結衣の大ファンである。戯言シリーズは途中でミステリィではなくなってしまったので、読まなくなってしまった。噂で、忘却探偵シリーズは再びミステリィになっていると聞いたので、実は読んでみようかなあ、と何度も本屋で手に取っては戻していた。そんなタイミングでのドラマ化。しかもガッキー主演。これは観ないわけがないッ!

ガッキーの忘却後の演技がよかった。隠館厄介といい感じに距離が近づいたーと思った後の、眠って目覚めて、「誰?」みたいな疎遠な雰囲気の演技には痺れた。ガッキーって、こんな演技もするのだなあ。あまりにもテンポが早くって、パッパ、パッパ、と展開する。その軽快さ、コミカルさの中に、一瞬だけ、ヒヤリ、とする程の悪意が入り込んでいて、上手な演出だ、と思った。

話は逸れるけれど、ボクは笠井潔の『バイバイ、エンジェル』(創元推理文庫,1995年)という作品が大好きだ。この作品では首なし死体が登場する。何故、犯人は首を切ったのか。主人公の矢吹駆はその理由を突き詰めて考える。その結果として犯人が自然と炙り出される。非常に純度の高い正攻法的なミステリィ。これぞミステリィという感じ。フランスを舞台にしているし、翻訳ものっぽい硬い文体だし、革命等の思想・哲学のやり取りも交わされていて、非常に難解な物語ではあるんだけれども、実はミステリィとしては非常に単純で、それでいて真っ向勝負。

実は『クビキリサイクル』を読んだときに、ボクは笠井潔の『バイバイ、エンジェル』と根本が重なる感じがした。何故、犯人は首を切ったのか。文章こそラノベっぽい感じで装飾されてはいるけれど、『バイバイ、エンジェル』と同じ純度の高い正攻法的なミステリィだな、と感じた。後になって、西尾維新が影響を受けた作家の一人として笠井潔を挙げているのを見て、やっぱりね、と。

何が言いたいのかと言うと、戯言シリーズはシリーズが進むに連れて、徐々にミステリィを放棄して人外バトルの様相を呈してくる。ボクは『クビキリサイクル』に本格ミステリィの構造を見て、そこに過度に期待してしまった。そして見事に裏切られて、読むのを止めてしまった。でも、本来、西尾維新はちゃんと純度の高い正攻法的なミステリィの視点を持った作家なのである。少なくとも『クビキリサイクル』はそうだった。『掟上今日子の備忘録』はまだ読んでいない。でも、テレビドラマシリーズは面白かった。だから、もう一度、『掟上今日子の備忘録』の原作にチャレンジしてみようかな、と思っている。あの独特なセリフ回しや文体で、『掟上今日子の備忘録』の世界を堪能するのも、また一興だろう。


『掟上今日子の備忘録』(著:西尾維新,講談社BOX,2014年)